懐古の街
「俺の名前は、仲神 颯太 (なかがみそうた)颯太って呼び捨てでいいよ。」
「颯太さ…んだば、わだすの事は皐月と呼んでくれればいいだども…それにしても、わだすに気付いてくれだ、大人のひどは大層、久しぶりだなや。」
彼女はそう言いながら、うんうんと頷くような仕種をしながら、顎に手をやって考える時のポーズをとって俺の顔をマジマジと大きな紅い瞳で覗き込むようにして急接近して来た。
「…気付いてくれたって…?どういう事だか分からないんだけど…」
「わだすらは、確かに物質界に存在してるけっど、普通の人間にとって、空気みたいな存在で、固体として認識する事は、不可能だっぺや。」
そんな存在をなんで俺が認識出来るのかは、まだわからないのだが…。
「そういえば、大家さんが言っていたけど、このアパートは何故か3ヶ月以上借り手が居着いた事がない…みんな、半年と持たずに引っ越して行くって聞いたんだけど……」
「……んだば、兄さんが来る前に、こん部屋には、OLの女の子が住んでいたんだっけど……」