懐古の街

「こんな田舎にわざわざ越してくるなんて、兄さん なかなか見込みがあるヤツじゃあねえか!
 それに、一番鮮度がいい秋刀魚を見定める目を持ってると見た!
 いやあ、気に入った!引越し祝いに、いい、蛤が入ったからな!持って行きない!」


何故か、魚屋の主人にえらく気に入られてしまった俺は、バンバンと背中を叩かれながら、蛤が詰まった袋を押し付けるように持たされた。

秋刀魚の代金を払おうとしたら、それもいいと言われてしまったが、流石にそういう訳にも行かないので代金を支払ったら、おまけをつけられて、三匹の秋刀魚が袋に詰められていた。


「魚屋さんのご主人、颯太さの事えらく気に入ったみたいだべな。これはいい蛤だなや。これを使ってみそ汁さ、こさえたらいいダシがでるべ。」


蛤の入った袋をのぞき込みながら皐月さんが嬉しそうに、そう言った。

「秋刀魚と一緒に焼いて浜焼きにして食べる分もありそうだね。随分沢山詰めてくれたみたいだし。今日の晩飯は豪勢になりそうだ。」
< 16 / 32 >

この作品をシェア

pagetop