一人睨めっこ
 高村麗香は、自分の頭を辞書で殴っている。
 何度も、何度も。
 寒気がした。
 霊的な事ではない。
 この、自分の頭を打ち続ける彼女に。

『止めろっ!! 麗香――』

 林田が彼女から辞書を奪い取った。

『あ……』

 彼女は暫く呆然とした。

『やだ……頭……声が……私……いやあああっ!!!』

 彼女は自分の手をグーにして、頭を殴り始めた。

『死んじゃえっ……ああっ!! ……っえなんか……』

 殴りながら何か喋っている。

『麗香!!!』

 すかさず林田が止めに入る。
 彼女の腕を掴んで、動きを封じる。

『いやあああああっ!! あああああ!!!!』

 彼女は体をじたばたさせている。

 狂ってる……。
 誰もがそう思っただろう。

 このショートヘアの彼女が
 普通の中学生だっただろう、彼女が


『うあああああ!! 嫌――死ね死ね死ね!!』


 狂っている……。
 
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