一人睨めっこ
 俺は、出窓の所に水の入った洗面器と紙とペンを置いた。
 出窓の前まで椅子を運び、俺はそこに座った。
 淳と真奈美は俺の隣に立ち、洗面器を眺めている。
 チイラは、特等席とでも言うように俺の真上に浮いている。

 何だか不気味だ。

 洗面器には、正真正銘俺の顔が写っている。

 日没まで後二分。

「……始める」

 三人は、頷いた。

 早速俺はペンを持ち、紙に呪文のような文字を書く。

“ソシソアカミクニツクモ”

 書いている俺の手が、少し震えている。

 心では腹くくってても、やっぱり――怖いんだな。

 日没まで後一分。

 前のように、紙を一瞬水に漬け、すぐ取り出して指でなぞりながら読む。

「ソシソアカミクニツクモ」

 その指で鼻筋をなぞる。
 日没まで後三十秒。

 心臓が嫌に高鳴る。
 体が感じているのだろうか。
 今から始まる――壮絶な事を。
 危険な事を。

 日没まで後十秒。

「よし!!」

 後九秒。

『頑張れよ!!』

 後七秒。

『死なないでね』

 後五秒。

『ヘマしないでよ?』

 後三秒。

「…………」

 後一秒。

 俺の目から一粒程の涙が零れた。


 そして――日が没した。
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