一人睨めっこ
「だ……黙れ!!!!」

 俺は思い切り手を突っ込んだ――水の中へ。

 瞬間、

「――――ぁっ」

 何とも言えないような感触に襲われる。
 ヌルッとしたような
 ドロッとしたような
 
 俺はやっと思い出した。

 今
 水の中にはもう一人の俺の魂があるんだ――。

 つまり俺は
 魂の中に、手を入れている。

『おっ……い、やめろ!!』

 もう一人の俺は叫んだ。
 水面が揺れ、写っている顔が歪んで見えた。

『てめ……やめろって!!』

「お前なんかに、俺の体は渡さない――!!!」

 俺は無意識の内にそう叫んでいた。
 これが俺の本音だったのかもしれない。

 悔しかった。
 平凡で、地味だった俺にも
 頼りになる親友が居て
 好きだと言ってくれる人が居る
 って分かったのに、
 体を取られるなんて

「嫌だ…………」

 俺は水の中に手を入れたまま、魂を握り潰すかのように、ゆっくりと指を曲げていった。
< 120 / 130 >

この作品をシェア

pagetop