一人睨めっこ
『……真琴君、ちょっといーい?』

 駿兄はそう言って手招きをした。

「??」

 俺は駿兄のもとへ行った。
 駿兄が部屋を出たので、俺も部屋を出た。



『真琴君は、何を聞いたの?』

「え?」

『何を言われたの? 何を感じたの? 何を思ったの?』

「そ……れは……」

 駿兄は、この人は、
 全て気付いていた。
 俺の心の動きに――。


 ――生きてる意味ねぇんだよ――

 あの言葉が頭に蘇る。
 とても、鮮明に。

「俺、生きてる意味あるのかな……」

 ふと、俺は呟いていた。

「何やっても並で、地味で、平凡で……そんな俺より、何でもこなせるもう一人の俺の方がいいだろ……」

 口から次々と零れる言葉達は、悲しく廊下に響いた。

「いっそ俺なんか死んだって何も変わらない――」

 俺は言葉を止めた。
 頬に衝撃が走ったからだ。

「駿――兄?」

 駿兄が、俺を殴ったんだ。
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