一人睨めっこ
 私はお母さんにその指輪の話をする事は無かった。

 私が言わなければ、今まで通り仲良く出来る……。

 私のまだ小さかった脳が考えた答えだ。
 でもその考えは、ちょっと甘かったみたいだ。


 ある日――。

『ごめんね真奈美、今日はちょっとお外で遊んでて?』

「何で〜?」

『母さんがいいよって言ったらお家戻ってきても良いからね』

「……? はーい」

 お母さんの言葉に多少疑問を感じながらも、私は家の向かいにある公園で遊んでいた。
 暫くすると家の前に知らない車がやってきて、知らない男性が降りてきた。

『お昼からこうして会えるなんて、何だか緊張するなぁ』

『うふふ、狭い家だけどどうぞ』

『いやいや広いよ! これで一人暮らしなのかい?』

 一人……?
 違うよね。
 私が居るよね。


『……ええ』

 私の存在自体を否定するようにお母さんは言った。
 そして男性と腕を組んで、家の中へ入っていった。
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