一人睨めっこ

七節 尊敬

『小さい頃はよく分からなかったけど今なら分かるよ』

 葛西は言った。

『仕事と偽って男と遊んでたし、私の事も邪魔だったんだよねっ』

 そう言って葛西はあははっ、と笑った。

「……無理して笑うなよ」

『……無理してないもん』

 嘘つけ、泣きそうな顔してるくせに。

『でね、ついこの前――お母さん死んじゃったの』

「え!?」

 葛西がさり気なく付け足した言葉に、俺は大きく反応した。

『よく分かんないけど、交通事故だって。呆気ないよね』

 俺は言葉を失った。

『あんな母親……どうでも良かった……なのに、どうしてこんなに悲しいんだろう……』

 葛西は、泣いていた。

『やっぱさぁ、母親なんだよね。産んでくれたんだもんね……』

「かさ――」

『嫌いだったのに、嫌いな人が死んだのに……悲しいんだよ』

「葛西っ!!」

 俺は葛西を強く、強く抱き締めた。
< 79 / 130 >

この作品をシェア

pagetop