銀盤少年
0回転
新たなスタート
キャリーバックを引き連れて、人々が行きかう空港内を探索する。
国際便がある空港だがここは日本。
日本人が大半を占めるのは当たり前のことなのだが、四方八方から飛び交う日本語に少しだけ言葉酔いした。
頭の中で日本語がロシア語に変換されていく感覚。
慣れている行為とはいえ、入って来る情報量が桁違い。気分が悪くなるのは必然か。
いっそのこと言葉がわからなければ酔うこともないだろうけど、生憎日本語はとっくの昔に習得済みだ。個人的な公用語はロシア語だけど。
まずはこの環境に慣れることだなと決意を新たにしていると、遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえた。
ネイティブな発音で呼ばれ、声のする方に顔を向ける。
視線の先にいたのは、ピョコピョコと毛先が撥ねた茶色がかった髪を持つ少年。
真ん丸の瞳が俺を捉えると、その人物は人の波を掻きわけながらこちらに向かってくる。
波を抜けるとそのまま全速力で俺の胸に飛び込んで、ギュッと強烈なハグをされた。