銀盤少年
あらやだ恐い顔。でもここで引いたら俺の負けだ。
「お互いメリットがあるだろ? だからフリーは任せたぞ! はっはっはー!」
……というのはもちろん全部嘘。俺が楽をしたいからって、そんな理由じゃない。
それにフリーを滑りたいのは俺の方だ。こんな美味しいポジションを易々と渡せてたまるかってんだ。
それでもフリーを譲ったのは狼谷のため。
ヒロは心配しているけど、きっとシーズンに入る頃までには本来のジャンプを取り戻すはずだ。
ヒロの練習メニューの甲斐あってか、ジャンプの精度も日に日に良くなっている。
問題は試合感。こればっかりは練習だけでどうにか出来るもんじゃない。
どんなに凄いジャンプを跳べたって、試合で決められなければ意味がない。宝の持ち腐れだ。
試合の雰囲気や緊張感に慣れるには、実際に場数を踏んでいくしかない。
だから敢えてフリーに出場させる。