銀盤少年

もっとも緊張と不安がピークに達するフリーの演技に出場させて、あの頃の感覚を無理やり取り戻させるのだ。


鬼だ鬼畜だ悪魔だと、ヒロには爽やかに罵倒された。爽やか過ぎてマジ恐ぇ。


荒療治かもしんねえけど、これが一番手っ取り早い。


橋本杯の後にあるブロック大会のことを考えると、今の内に試合の修羅場を経験した方が良い。


橋本杯優勝は勿論狙っているけど、それよりも狼谷の選手としての復帰が最優先。


コーチも振付師もつけないと言い張っている以上、部活メンバーである俺達が狼谷を現役時代のレベルまで最低限持っていかなければならない。


だから荒っぽいけど、実戦練習で勘を取り戻すしかない。その機会を与えるのが俺に出来る最大限のサポート。


そのことをヒロに伝えたら、渋々だけど承諾してくれた。草太も全日本ジュニア出場のためと言えば、わかってくれるだろう。


けど御本人に言ったら「ざけんじゃね! 余計なことするな!」と、ツンツン全開で拒絶されるのはほぼ間違いない。


だから俺のわがままということにしておいた。それはそれで拒絶されそうだけど、あいつの性格を利用すれば……。
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