銀盤少年

「四月から編入したんだ。驚かせようと思って朝飛には黙ってもらってた」


「じゃあお前、今シーズンから……」


「嗚呼、今期から本格復帰だ」


やっと戻って来れたんだ。長いリハビリを乗り越えて、仁が競技に……。


嬉しくて嬉しくて、朝飛に負けずとも劣らない強烈なハグを仁にかました。


ノリが良い仁は、ふざけてギュッと抱き返してくる。


男同士の本気のハグとか、第三者視点から見たらかなり恐ろしい光景だろう。


でも嬉しいから自重はしない。だって仁が戻って来たんだから!


兄貴のライバルで、“大塚世代”の一角で、当時ジュニア最強と謳われていた橋本朝飛に、唯一土をつけた元世界ジュニアチャンピオン。


また一緒に滑れるんだと思うと喜びが一段と湧き起こって、だけど同時に複雑な想いも脳裏を過った。


熊川仁。彼の“瞳”を奪ってしまったのは他でもない。


狼谷健太郎。その人なのだ―――
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