銀盤少年
あんな滑りを間近で魅せつけられたら、誰だって引き込まれる。
アクセルの態勢に入ったけど、跳び上がらずにその場でクルリと回って着氷の姿勢を作る。
ジャンプは跳ばずに演技全体の流れを確認するようだ。
一本調子の独特な民族音楽は滑り辛いはずなのに、巧みなスケーティングで音を捉えて表現している。
表情とか振り付けとか、そんな小技が一切いらない滑りだけの表現。
風が哭いてる。そう感じる。
タクさんの世界観に飲み込まれて、五感全てを奪われて、気が付いたらツゥーッと頬に冷たいものが伝っていた。
あれ? なに泣いてんだ俺?
ただの練習で、タクさんだって本気で滑っているわけじゃないのに泣くとかカッコ悪すぎ。だせぇ。
周りに気付かれないように涙を拭うと、タクさんの演技があっという間に終わっていた。
やばっ。タクさんこっち来る。
こんな所見られたら恥ずかしすぎる。なんとかして誤魔化さ―――