銀盤少年

ケーゴはさりげなくタクさんにスポーツドリンクとタオルを手渡して、あそこの振り付けがカッコイイとか、あのステップの組み合わせは僕には出来ないなどと、猛烈アピールをかかさない。


信仰の対象とまで言い切るほどだから、ケーゴからした今の状況は至福の一時なんだろうなぁ。


だからって突き飛ばすなよ。何度も言うが。


狼谷とは違うタイプで性質が悪い。本心が見えない分こっちの方が恐ろしい。


「そういえば一樹はフリーを滑るんだろ? 折角だし手直ししてやろうか?」


「手直し……ってなんですか?」


あ、やべ。ケーゴは知らないんだ。


「フリーの候補曲を一樹にあげたんだ。“winter into spring”って知ってる?」


「タクさんっ……!」


ダメだって! ケーゴにそんなこと話しちゃいけないって!


冷や汗を流しながら、恐る恐るケーゴの方へ顔を向ける。
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