銀盤少年

きっとかなりの間抜け顔だったんだろう。


タクさんはちょっとだけ吹きだすと、悪い悪いと謝って二の句を続けた。


「俺がイメージしたのはアルバムの方。“winter into spring”だよ」


タクさんは女の子が卒倒しそうな、柔らかくて優しい笑みを浮かべながら言う。


「こんなこと言ったら笑うかもしれないけど、アルバムの名前とこの曲を聞いて、真っ先に妖精をイメージしたんだ。春を心待ちにしている物静かな冬の妖精を」


「妖精?」


「そっ。曲単体だと確かにクールで物静かな印象を受けるけど、アルバムの意味を考えたらなんか明るいイメージが湧いてさ。だから冬の妖精ってわけ。発想が子供だよな」


恥ずかしそうに微笑むと「俺が妖精とか気持ち悪いからボツにしたんだ」と、最終候補から外した理由も教えてくれた。


冬の妖精だなんて、そんな発想は思い浮かばなかった。


暗い曲ではないけれど特別明るいってわけじゃないし、はっちゃけるようなメロディーラインもない。


だけどそう言われると妙に納得して、タクさんがしきりに「笑顔で滑るように」と言っていた意味が理解できた。
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