銀盤少年
まさか……でも狼谷って名字は珍しいし……あの人を寄せ付けない雰囲気とかは……。
「え、でも、どうしてヒロが狼谷のこと知ってんだよ」
「まだ日本に住んでた時、東京にいたんだけどね。ケンちゃんと同じスケートクラブに通ってたんだ。よく一緒に練習してたけど、八歳ぐらいの時にケンちゃんがこっちに引っ越して、俺もロシアに行っちゃったから久しぶりに再会したんだけど……」
知らない間に金髪になってたよ。と困ったように微笑んで、ヒロは肩をガックシと落とした。
「カズはさ、例の事件をどこまで知ってる?」
いきなりの問いに心臓が一瞬止まる。
ヒロも知ってるんだ。狼谷がスケートをやめた理由を。その原因も。
スケーター達の間でタブーとされているパンドラの箱。
逸る気持ちを抑えて、ヒロにバレないよう小さく深呼吸をしてドクドクと煩い心臓を落ち着かせた。
「あいつが通ってたクラブってこっから一つ離れた市にあるから、それなりの情報は大人達の耳には入ってきたようだけど……。
俺達生徒には必要最低限のことしか知らされなかったし、首を突っ込むのも禁止されてたから……」