銀盤少年

いきなり確信に迫るのもなんだから、まずは日常会話。


カズの小さい時のことも気になっていたら、ついでに聞いておこうと思ったわけだ。


「そうだよ。俺の初めての教え子があの子だから、色々と思い入れが深くてね。弟みたいなもんさ」


初めての教え子がこうして活躍しているのは、コーチにとって凄く嬉しいはずだ。


自然と笑みが零れていて、二人の信頼関係の深さが伺える。


「でも、ヒロ君には敵わないなぁ。コンパル嫌いの一樹にあれをやらせるなんて、どんな手を使ったわけ?」


「なにもしてないですよ。こっちだとやらないんですか?」


「うちは基本的に放任主義だからね。元々トップ選手を育てるつもりはなかったから、何をすればいいのかわかんなくて。ハハハッ」


そうなんだ。これはちょっと意外な事実。


だけどクラブの子供達はまだ小学校低学年ぐらいだし、カズが五歳の時にスケートを始めたと言っていたから、当時コーチの年齢は二十代。


トップ選手を育てるコーチになるのなら、まずは有名な指導者の元で助手をしながら経験を積むのが定石。
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