銀盤少年

「最近ジャンプが乱れてるんです。ご存知ですよね?」


宮本コーチの目の色が変わる。


すぐにニッコリと微笑んだけど、痛いところを突かれて一瞬視線を外したのを見逃さなかった。


隠し事をしている人間の反応。嫌な予感しかしない。


もう少し揺さぶってみるか。


「力で無理やり跳ぼうとするんです。それで軸がブレたり、回転しすぎてしまって転倒したり。かなり危険な跳び方です」


なにか言いたげそうに唇を動かしたので、「でも」と間髪いれずに続けた。


「僕が少しアドバイスをしたら、簡単に修正出来るんです。普段通りの完璧な跳び方に。だからきっと、カズは“意図的に違った跳ぶ方”をしてると思うんです」


言い逃れなんてさせない。


人の良さそうな顔をしてるけど、この男腹の底では何を考えているのか全く読めない。


どこの馬の骨かもわからない生意気な高校生にここまで言われたら、「素人に何がわかる!」と怒りを露わにしたり、「君は何を言ってるんだい?」と疑問を投げかけたりと、何かしらのアクションを起こすはずだ。
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