銀盤少年

胸の奥が熱い。ジリジリと熱を孕んで、感情の糸を一本一本焼き千切っていく。


感情的になるな。これじゃあ本当にただの悪口だ。


「君はやけに突っ掛かるね。一樹の心配をしてくれるのは嬉しいけど、これは二人で決めたことだから」


「友人が間違った道に進んでいるのを黙って見過ごしわけにはいきません」


「間違った道か……君が言うと随分重みが増すね。アレクサンドル・イワノヴィチ・トルストイ君」


「なっ!?」


この人、なんで俺の本名を……!


カズにはファーストネームしか教えていない。


ロシア名のフルネームを知っているのは、身内かケンちゃんぐらいのはずだ。


なんの接点もないこの人が知るはずなんて―――


「……貴方はいい人ですけど、どうも好きになれません」


脳裏に浮かんだ推測を打ち消して、何事もないように横に立つ人物に辛辣な言葉を投げつける。
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