銀盤少年
「逃げるなよ」
唇が動く。
「彼から、スケートから、それになにより自分から」
風の音。グランドから聞こえる運動部の掛け声。
周囲の音にまぎれて、ヒロの諭すような声色が耳に届く。
暫しの静寂の後、狼谷は乱暴に腕を離した。
バツの悪そうな表情と裏腹に、ヒロは相変わらず余裕の笑み。
「俺の諦めの悪さは、ケンちゃんが一番よくわかってるだろ?」
「……チッ」
険しい表情のまま、狼谷は小さく溜息をついて睨み返す。
「お前が出るのか」
「まさか。部長のカズが出るよ。もちろんブランク分のハンデは用意するし、ケンちゃんの実力なら五分五分でしょ?」