銀盤少年
“魅せつけられた”
一言で表すのなら、その言葉しか思い浮かばない。
ジャンプは全て二回転。三回転はゼロで、一番難易度の高いジャンプは2A。
いくら表現力に優れた選手とはいえ、エレメンツを確実にこなしてこそ表現したい世界が確立される。
そこがプロとアマチュアの違い。どんなに素晴らしい表現を持っていても、ジャンプがダメなら全てがダメになってしまう。
なってしまうはずなのに、俺達は息をのんでヒロの演技に見入っていた。
まるでアイスダンス。ブレードが自分の足のように動いていて、自在にエッジを使い分けている。
氷面に刻まれたトレース痕を見れば、その高い技術が伺える。
繊細で、それでいて優雅で、音もなく滑らかなスケーティングは、今まで見たことがないほど美しい。
そう、美しいのだ。
滑りだけで人を魅了し、世界観を構築している。