銀盤少年

滑りも表現も、ジャンプ以外の細かい技術とか、総合的にレベルが違う。


あっという間に四分が経ち、ヒロの演技が幕を閉じる。


会場の誰もがその演技に見惚れ、誰一人声を出さずリンクに佇むヒロを見つめていた。


常に世界の前線で戦っている朝飛でさえも、驚きと感動が入り混じった瞳をしていて、瞼一つ動かさない。


思い出したかのように誰かが拍手をすると、それは爆発的に拡がって大喝采となり鼓膜を刺激した。


俺の知らないヒロ。見たことがないヒロの姿。


色々と本人にツッコミたいことは山ほどあるけど、というか後で絶対問い詰めるけど。


今は胸が一杯一杯で、とても会話が出来る状態じゃない。


濃厚で密度の詰まった洋画を映画館で観たような、そんな感覚。


感動と満足感と少しの疲労がどっと襲いかかって、この余韻を味わっていたい。


ヒロがリンクから上がる。


俺の姿を見つけるとニコッと微笑んで、額に滲んだ汗を手で拭った。
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