銀盤少年
なんか腑に落ちないって言うか、こんな近くにいたのに全然気付かない俺ってどんだけ鈍いんだよと馬鹿らしく思えてきた。
髪の色変えただけでわかんないもんだなぁ。
当時の俺は国際大会に出られるほどの選手じゃなかったし、二・三年前の出来事だからすっかりアレクサンドル(ヒロ)の顔なんて忘れてた。
でも確か、俺の記憶が正しければ……。
「日本に来たのは怪我の治療?」
詳しいことは俺にもわからない。ちょうど兄貴が亡くなった時期と被るから、その辺のスケート情勢はほとんど記憶に残っていない。
だけど世界ジュニア三位のロシア選手が、大怪我をして競技から離れたという話は小耳に挟んでいた。
ヒロは「それも理由の一つだけど、家庭の事情が一番の理由だよ」と明るく答えた。
流石に家庭の事情にまで首を突っ込むわけにはいかないが、ヒロが頑なに選手としての入部を拒んでいた理由はそれか。
怪我で滑れる身体じゃないから……て、あれ?
ついさっきめっちゃ滑ってたやん!