銀盤少年
「でも、凄く綺麗な滑りでしたよ。怪我をしてるなんて嘘みたいです」
堪らず草太が口を出したが、ヒロは首を横に振って軽くそれを否定した。
「怪我自体は一年前に完治してるんだけど、痛めた所が悪くてね。リハビリの末取り戻せた三回転は、トウループとサルコウだけ。それでシングル選手としての夢は諦めたってわけ」
ヒロは微笑を浮かべながら言う。
「まさかこんな形で競技に復帰するとは思わなかったよ。ケンちゃんとの練習に付き合って滑ってたからなんとかなったけど、お陰で足はパンパンだ」
「そこは本当に申し訳ないです……」
今日だけで頭を下げたのは何回目だろう。
俺のせいじゃないけど、遅刻したのは事実だから誠心誠意込めて謝罪。
「冗談抜きで悪かった。皆に迷惑かけちまったし、特にヒロにはすげぇ負担かけちまって……」
「俺は気にしてないよ。久しぶりに滑れて楽しかったし、いい思い出になったから。ありがとう」
感謝するのは俺の方だ。怪我を押してまで出場させたのだから、罵倒されて当然なのだ。