銀盤少年
下手をすれば日常生活にすら支障をきたす大怪我をして、死に物狂いでリハビリをして、それでも取り戻せなかったスケーターとしての道。
もう諦めようとした絶望しかけた時に、たまたま観かけたのがモスクワ大会でのカズの演技だった。
ゾッとした。
緊張感が張り詰めるリンクの中で、ギリギリの精神状態を保ちながら競い合う競技の中で、圧倒的に一人だけ浮いた存在に恐怖に似た感情を抱いた。
だが、同時に興味も湧いた。
あの独特の緊張感の中で闘うことに少なからず快感を覚えていた俺にとって、カズという選手は異形であり知的好奇心をそそられる存在だった。
そして辿りついた答えが、一つ上の領域。
情熱でも愛情でもない、さらに上の感情。
きっと俺は、カズのいる領域に足を踏み入れることは出来ない。
じゃあ、今現在俺のいる場所は?
情熱? 愛情? 違う、ただの気情だ。