銀盤少年

国内ジュニアチャンピオンというちっぽけなプライドを守りたくて、競技に戻ることだけしか考えていなくて、意地を張って無理やり続けようとしていただけ。


嗚呼、所詮俺はその程度の選手だったんだ。


スケートに対する情熱も愛情も忘れかけて、周囲の期待や同情に動かされる人形に成り下がっていたんだ。


怪我をしなければ、カズの演技に出会わなければ、気付くことがなかっただろう。


こんな気持ちでスケートを続けて何になる?


無駄なプライドに囚われて、自分自身を見失いかけている選手の演技が、人々の心に響くはずがない。


それになにより、俺自身が空しいだけ。


そんなわけで、良くも悪くもカズの存在が、スケート競技から離れるきっかけになったのだ。


「そういや」


ポツリと聞こえるかどうかの声でケンちゃんが呟く。


患部をペットボトルで冷やしながら耳を傾けると、懐かしむように言葉を紡ぎ出した。
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