銀盤少年
「昔、確かノービスBの頃だったか? 一哉がなんか言ってたな」
「一哉って、双子のお兄さんの?」
「嗚呼、「スケーターとしての才能は俺の方が持っているかも知れない。けど、本物には敵わない」ってな。
双子ならではの贔屓目だと思ってたが、今ならなんとなくわかる気がする」
ケンちゃんは言う。
「ヒロノの言う一つ上の領域にいる限り、あいつは精神的に潰れることがない。常に邁進して進化し続ける。才能に恵まれた一哉だから、あいつの無限の伸びしろに逸早く気付いたんだろうな」
「無限の伸びしろ……か」
言い得て妙とはこのことだろう。
一つの道を決めるには精神的な強さが必要だ。
才能があっても、環境が整っていても、努力をしても、ふとしたきっかけで崩れてしまえば元に戻すのは困難だ。
立ち直ったとしても、その間の時間を取り戻すことは出来ない。
けどカズは崩れることがない。伸びしろをいくらでも伸ばすことができる。