銀盤少年
チームメイトの激励を受けるが、カズは一言も発せず黙ってコクリと頷いただけだった。
緊張している……という感じではなさそうだ。
集中しすぎて周囲の音が入ってこないだけ。これは良い状態なのかな?
普段は全く続かないのに、ここぞという時の集中力はすさまじい。
試合のことしか考えていないのか、表情は読めずにポーカーフェイスを貫いている。
今回もコーチ不在という状況なのに(なんで来ないんだよあの糞コーチめ)一人で気持ちを高めてコンディションを整えるあたりはベテランの域に達している。
ただ、気持ちを高めすぎてもいけない。
行き過ぎた集中力は、逆に表現力を喰ってしまう。
エレメンツにばかり気を取られ、演じることを忘れてしまうからだ。
その辺りの微調整をするのもコーチの役目なのに、俺に丸投げするとはいい度胸してるじゃないか宮本コーチめっ。
「行って来い」
最後に両手をポンッと叩いて、カズを送り出した。