銀盤少年

後は己との戦い。俺達に出来るのは声援を送るのみ。


カズの知名度はスケート関係者の中でもトップクラスだ。


鷲塚一哉の弟というある種不名誉な知名度だったが、ここ最近では実績でその名前を知らしめている。


拍手と声援の中、ゆっくりと定位置を確認すると、カズは右手の甲で口元を軽く拭う。


するとさっきまで集中しきっていた無表情が破綻し、口の両端を吊り上げて悪戯な笑みを浮かべた。


―――スイッチを切り替えた。


軽快なジャズのリズムに合わせて、カズの身体が動き出す。


SPの使用曲は『sing sing sing』


スケーター御用達の定番曲。人気があって、会場が必ずといっていいほど盛り上げる名曲だ。


だからこそ、技量が問われることになる。


ケンちゃんに「名曲の無駄使い」と言われないようにしろよ。
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