銀盤少年

『滑りながらジャッジと会話をしなさい』


俺とケンちゃんのかつての恩師が、試合前に教えてくれた秘密の魔法。


ジャッジも人の子。目で力強く訴えれば、点を出してくれる。


んなわけないと半信半疑だったけれど、今ならその言葉の意味がなんとなくだが理解出来る。


顔を上げて視線を一点に定めろと、先生は言いたかったのかもしれない。


ジャッジ席を見るように心がければ、自然と顔が上がって表情が良く見える。


日常生活でもそうだけど、前を向いて話すのと俯いて話すとでは、同じ条件で行ったとしても両者の印象は全く異なる。


会場がどんなに盛り上がろうとも、コーチが絶賛しようとも、得点は付けるのはジャッジ席に座るプロの方々。


ジャッジに好印象を与えるためのセコイ小技かもしれないけど、アイコンタクトというのは案外馬鹿に出来ない。


自分が何を表現しているのか、どんな気持ちで滑っているのか、目で会話することで振り付けだけでは表すことが出来ないことをジャッジに伝えることが出来る。


単純なことだけど、これが意外と難しい。
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