銀盤少年
以前の仁君の演技は何度も観たことがあるけど、あのような跳び方じゃなかった。リハビリ中にジャンプが変わったのか?
アクセルの衝撃に驚きを消化できぬまま、続けてジャンプに入る。
こちらも予備動作を極限まで減らしたフリップジャンプ。
高さと幅のバランスも良い。ファーストジャンプが決まればコンビネーションは付けやすい。
3F-3T。安定したコンビネーションジャンプ。エッジも完璧。
繋ぎの要素も音に合っていて、どこか寂しげに空を見上げて……って、ジャンプ!?
ステップから即座に3Lz。言葉の通り“即座”に跳び上がったから、ビクッと身体が震えたほど。
ステップからのジャンプはSPの規定だけど、ステップからダイレクトにルッツを跳べる選手なんて限られている。
ルッツの名手と言われる選手も、ステップとジャンプの間に僅かながら“溜め”が生じる。それが普通だ。
けど彼にはその溜めが一切ない。
ルッツもフリップもアクセルも、対した助走も取らずに跳び上がってしまうのだ。