銀盤少年
やっぱあいつのオーラはヤバイ。狼谷を中心にあらゆる感情が飲み込まれて、もうあいつから目を離せない。
掴みは完璧だ。ジャンプが決まれば、もう文句なしで一番だろう。
六分間練習では綺麗に決めていた3Aを初っ端に予定している。
本格的な練習を再開してまだ数カ月なのに、あいつはフリーで二本の3Aを組み込んでいる。
体力的な問題がまだ残ってるのに、一番体力を消耗するアクセルジャンプを二本入れてくるとはなんともクレイジーな男だ。
けど、これを決めれば技術点で優位に立てる。
表現力は言わずもがな。ジャンプさえ成功させれば、ジュニアで狼谷に勝てる選手はそうそういない。
重要な最初のジャンプ。このジャンプが、今後の演技の流れを左右する。
スピードに乗る。勢いは十分。
シャッと小気味のいい音がして、狼谷の身体が宙に舞う。
軸がやや斜め。これはちょっとまずいんじゃ……。