銀盤少年
でも一番すごいのは技術的なことじゃなくて……。
表現力。いや、気迫って言葉の方が個人的にはしっくりくる。
孤独と絶望の淵から這い上がって来るような力強い表現は、滑りと振り付けだけじゃきっと表わせない。
狼谷の存在感に強い感情が乗って、初めてあの表現が出来る。
練習とかで初めて見た時は、あいつ自身が体験してきたことを表現しているのだとばかり思っていたけど、こうして一つのプログラムとして観るとそれが間違いだと気づいた。
あれは狼谷自身を表現しているんじゃない。
あいつは、仁のことを想って滑っている。
俺達には想像も出来ない長い苦しいリハビリを乗り越えて、再びリンク戻って来た仁の強さを表現しているんだ。
確証はない。ただあいつが自分自身を表現するなんて、そんなことをするようには思えないし。
過去にトラウマがある奴が、その過去を演じるとは考えにくい。
それに橋本杯で見せた演技に対する執着は、ヒロが諦めるほど凄まじいものだった。