銀盤少年
だからあれは、仁を演じている。孤独と絶望から這い上がって、今まさに羽ばたこうとしている仁を尊敬し称賛しているんだ。
……ほんと、全然素直じゃねーな。
ステップが終わると拍手が起こり、ラストに向けて最後のエレメンツを披露する。
キャメルスピンからチェンジエッジ、シットスピンに移ってA字スピンに移行。
足を換えて再びシット、最後は両足で回るクロスフットスピンで締める。
余韻に満ちたスピンを終え、その瞬間狼谷が作り上げていた世界が、霧が晴れるようにスゥッーと自然に消えて行った。
オーラ消すの上手すぎんだろ。
周囲の反応は想像通り。観客もまばらだっていうのに、どこからこれだけの音量が聞こえてくるのか不思議なほど。
「ほら、次はお前の番」
先生に肩を叩かれて、次の滑走が俺だということを思い出した。
やべっ、見惚れてて忘れてた。全然集中出来てねぇ。