銀盤少年

余談だが、ヒロはスケート靴を履いている。カバーもなぜか付けていない。


こんなんで蹴られた死ねる。比喩とかじゃなくてマジで死んじゃう。


「まあ兎に角、俺が折れたってわけ。四回転の壁の向こうを知った選手が、三回転で満足出来なくなるのは俺が一番わかってるし」


ヒロが不敵に微笑む。そんな顔も格好良くて、様になるからなんか悔しい。


現在ISU(国際スケート連盟)が成功したと認定した四回転は、トウループとサルコウとルッツの三つのみ。


ナショナル大会や練習などで他の種類の四回転を跳んだという話もチラホラ聞くけど、事実上三種類の四回転しか成功例がない。


四回転の壁。その壁の内側に俺は片足を突っ込んでいる。


そして俺の眼前に、その壁を越えた存在が一人。


「カズは潰れるなよ。そのために託したんだから」


「おうっ。任せとけ」


この瞬間、俺は開拓者から挑戦者へとなったのだ。
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