銀盤少年

スピード、踏切りの角度、タイミング、空中姿勢、ジャンプの軸。


全てがかみ合ったそれは、何度も見返したDVDの映像に酷似していて、カズの姿に自分を重ねた。


着氷の衝撃音が、音楽よりも上回る。


轟音と共に氷は抉れ、辺りに氷片をまき散らす。


一瞬の静寂。そしてまばらな拍手。


着氷の瞬間両手で小さくガッツポーズを作ったカズは、演技中だということも忘れて振り向き様に右手を高らかに頭上へ掲げた。


「嘘だろおい……」


「あいつが跳んだのって……」


気付いているのはスケート関係者と、コアなファンだけだろう。


気付いていたとしても、信じたくないという人も多いはず。


ケンちゃんも仁君もおそらく後者。自分の見間違いだと思っている。


「見間違いじゃない」
< 469 / 518 >

この作品をシェア

pagetop