銀盤少年

口喧嘩ばっかしてたけど、狼谷が身近にいたからここまで成長出来たと思うし、これでも一応感謝してるのだ。


だからって手は抜かねーけど。


目を閉じる。スイッチが切り替わる感覚。


緊張する。不安にもなる。ミスったら恥ずかしいという羞恥心だってある。


大の試合嫌いで、ガキの頃は試合の度に逃げ出してきた俺がここまで来れたのは、リンクに立つと兄貴の気配を感じ取ることが出来たからだ。


地上での思い出より、氷の上での思い出の方が圧倒的に多いからだろう。


家に居るよりもリンクに立つ方が、兄貴との思い出が走馬灯のように駆けて行く。


それは今でも変わらない。試合の時でさえ、鮮明に思い出が流れて行く。


嗚呼、俺は兄貴の軌跡を辿っているんだ。


そう思うと不思議と気持ちが落ち着いて、あのスイッチが入るのだ。


ここでジュニア勢の上位に入れば、世界ジュニアに行ける。


兄貴が立てなかった舞台。立つはずだった舞台に俺が立つ。
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