銀盤少年
そっと息を吐く。
もっと速く。全身に受ける風が、俺を押し戻すくらい速く。
凍てつく空気を纏いながら、一瞬の風になる感覚。
ヒロのノートには“つむじ風”と書いてあった。
そう、つむじ風。
4Aはジャンプじゃない。跳ぶのではなく、自分が渦の中心になるんだ。
自然と一体になる特殊な感覚。それを味わえるのは、きっと壁の向こう側を越えた時だけ。
四回転半を跳んだ時だけなんだ。
勢いを殺さずに、右足を強く振り上げる。
風になる。小さな渦は冷風を巻き込んで、風を生み出す。
もっと高く、もっと遠く。もっともっと飛んで行け。
風になって飛び越えるんだ。