銀盤少年
こんなこともあろうかと、すでに手は打ってある。
左手に手にした物を見せびらかすように持ち上げる。掴んでいる物はストップウォッチ。
その瞬間、ケンちゃんの表情が青ざめた。どうやら本人も気付いているようだ。
「ショートの演技時間は二分五十秒。カズはピッタリ演技を終わらせたけど、ケンちゃんは二秒オーバーしてた」
演技時間のオーバーは減点対象の一つだ。新採点方式では、演技構成点から一点引かれる。
「時間オーバーは重大なルール違反。現行ルールに則ると明言している以上、この減点も考慮しなくちゃ……」
「クソッ!」
ペットボトルの水がリンクに零れる。
怒りに身を任せたケンちゃんが、さっき渡したボトルを叩きつけたのだ。
「約束だよケンちゃん。フィギュアスケート部に」
「入部すればいいんだろ!」
俺の言葉を遮り吠えた。