銀盤少年

ケンちゃんがフィギュアスケートをやめたのは、チームメートに大怪我をさせてしまったのが原因だとおばさんが教えてくれた。


怪我の程度はおばさんも教えてはくれなかった。


教えてくれなかったということは、捻挫とか骨折とかそんなレベルじゃないんだろう。


ケンちゃんがその選手からなにを言われたのかわからない。恨みごとの一つや二つ言われたかも知れない。


二人の心情や苦悩なども俺には理解できないけど、だけどその子が大怪我をしてもなおフィギュアを続けているのなら、ケンちゃんもその子に続いて競い合うべきだと俺は思う。否、続けなければならない。


「あの子は逃げてない。スケートからも怪我からも、真正面からぶつかってる。だったらケンちゃんも、真正面から向き合わなきゃいけない。向き合わなきゃ失礼だ」


トンッと胸を殴る。


拳から心音が響いて、命の鼓動が伝わってくる。


「やりたかったらやれ! なんか言われたら俺が助けてやるからさ。泣き虫ケンちゃん」


励ましたつもりだったのに、なぜかケンちゃんの眉間により一層深い皺が刻まれてしまった。あれー?

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