銀盤少年
「ケンちゃんさ、演技が終わった瞬間すっごく良い笑顔だったんだよ」
それはほんの一瞬の出来事。多分気付いたのは俺ぐらい。
「え」と気の抜けた返答が返ってきて、やっぱり無意識化での表情だったと確信した。
「久々の試合形式で血が滾ったんでしょ? だからわざわざ三回転を跳んだ。違う?」
「……うるさい」
逃げるように歩く速度を速めると、ケンちゃんは頭を掻いた。
本人は気付いてないようだけど、君は動揺したとき咄嗟に右手を後頭部に回す癖があるんだよ。
「素直になればいいのに」
俺の独り言は、茜色の空に溶けて消えた。
「邪魔だ。ド三流はリンクの隅でスピンでも回ってろ」
「おお恐い恐い。ド三流に敗北した一流様は言うことが違いますなぁ」