銀盤少年
ルッツはその性質上、助走のエネルギーをダイレクトにジャンプへ変換することが出来ないため、パワーかテクニックかで補うしかない。
草太の場合、高さが出ないせいで回転が少し足りずに降りてくるから、着氷が乱れて転んでしまうという典型的なパターン。
逆にいえば高さがあともう少し出れば、回転速度は十分だからルッツもループも跳びきることが可能だ。
草太は俺みたいに力で跳び上がるタイプじゃないし、ここは細かいテクニックを駆使して高さを練り上げる方法が草太には合っている。
新たなジャンプの習得は草太にとって最重要事項。大変だけど、新しい武器を手に入れるのは凄く楽しいことだ。
俺だって新しいジャンプを覚えたい。覚えたいのに……。
「嗚呼! 修正なんてやめだ!」
なんでルッツの修正なんて地味なことやらなくちゃいけないんだよ!
「いいか、ヒロ。俺はアクセルの練習をしたいんです。3Aからの3-3の練習を。なのに今更ルッツに重点を置いても意味ないと思うんですけど!」
草太が休憩のためリンクから上がった所を見計らい、我慢の限界に達していた俺は草太に付きっきりだったヒロに抗議を始めた。