ハルオレ-episode彼方-
僕は振り返ると、
「お、俺も連れてってよ。」
「は?」
「そのさ。ライブハウス。俺も連れてってほしいんだけど。」
……こいつ。相変わらず頭いかれてる。
本当にコイツの口からは何が飛び出すかわかったもんじゃないな。
「あのさー。僕は遊びに行くんじゃなくて働きに行くの。なんで働きに行くのにお前を連れて行かないといけないんだよ?」
冗談じゃない。コイツをライブハウスに連れて行ったら店長になんて言われることか。
「じゃー!俺もそこで働く!」
「はぁ?何言ってんだよ。お前、さっきお金には困ってないって…」
「気が変わった!俺もそこで働きたい!むしろ興味がある!」
キランと輝く翔の瞳。ああ…めんどくさいな。こんなはっきり意思を通そうとするヤツを説得するのにまた時間がかかるじゃないか。
く…それにこれ以上ここにいたら間違いなく遅刻だしな。
「彼方~~お願い~~俺も連れてって~~~。」
「……う。わかった!わかったから!しかたないから連れてってやるよ。」
「ほ、本当?」
「ああ。その代わり『面接希望』ってことでだぞ!」
「うんうん♪」
翔は嬉しそうに何度も頷いていたが、僕はため息を何度もしたい気分だ。
まぁ、たしかうちのライブハウスは一応アルバイトは募集していたから、店長に面接希望のやつがいると言えば喜ぶだろう。
きっと翔がこんなんだから後で怒られそうだけど。とりあえず、面接させてもらえるか聞いてみるか。
「よしっ!彼方。さっそく出発しよーぜ!」
「…は?出発ってまさかお前その格好で行くんじゃないだろうな?」
翔は寝巻きのようなTシャツにハーパンにポータブルゲームを手にしている。
そんな格好で面接を受けようとするなんてさすがはいうところだけど…。
「あ?やっぱりだめ?」
僕はエヘっと笑う翔に『早く着替えて来い』と一喝し、やがて着替えてきた翔とともにライブハウスへと向かうのであった。