ハルオレ-episode彼方-
でも…。
こうして女の人がこんなにも近くにいるなんて久しぶりかも。
…観奈。元気にしてるかな。
僕は今までずっと近くにいた幼馴染みの観奈をふと思い出した。
今彼女がどこで何をしているのか。僕は知らない。
ずっと一緒にいたはずなのに今は隣にいない。
僕は今あの頃とはまったくの別の世界に来たんだな。
若菜さんを隣にして失礼にも僕はそんな実感を得ていた。
そんなことを考えていると、無事に彼女の家に到着したのかタクシーが止まった。
「若菜さん、着きましたよ。」
僕は若菜さんを揺すり起こすと今まで閉じていた若菜さんのまぶたが薄く開く。
「出れますか?」
僕が彼女の肩を担いで外へ導こうとした瞬間だった。
「!?」
僕の口が彼女の口で塞がれた。
突然の彼女の行動。僕は驚きすぎて動きが固まった。
だけどすぐに彼女は僕から唇を離した。本当に一瞬のキスだった。
僕はその瞬間我に返り、片手を反射的に口元に当てた。
きっとこの時の僕は真っ赤な顔をしていたに違いない。
そんな僕に若菜さんはニコ~と満足そうなとろける笑顔を見せると、
「エヘヘ。今日はごめんね。ありがとう。」
若菜さんはタクシーからフラフラしながらもなんとか自力で降りた。
「じゃあ、気をつけて。おやすみなさい。」
若菜さんは僕に小さくお辞儀をすると手を振った。
「…は、はい。おやすみなさい。」
僕はそう返事をして、タクシーのドアを閉めた。
するとタクシーはすぐに走り出した。
道を進むにつれて、若菜さんの姿が小さくなり、やがて角を曲がり完全に彼女の姿は見えなくなった。