教科書を広げて


一目惚れだったせいかどうしても諦めがつかない。


「おじさん。」


手を合わせ全身全霊(ゼンシンゼンレイ)で"お願いします"を表現する。


「静ちゃんの頼みでもこれはねぇ・・・」


困った顔してそう言ったおじさんの眉は、下がる一方で。


しょうがない。
これ以上おじさんを困らせる訳にはいかない。
最後に駄目元で一つだけ聞いてみることにした。


「ちょっとの間だけ借りるってのは?」


お店に忘れてしまうくらいだ。
息子さんにとってそれほど大事なものじゃないのかもしれない。
ちょっとだけ貸してくれたっていいだろう。

それに、私は一日で読み終わる自信がある。



私は目をつぶり、おじさんの返事を待つ。


「聞いてみるから、ちょっと待ってな?」


良かった。
それほど悪くない返事だ。

後は息子さんの了解を得るだけ。


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