教科書を広げて


「おじさん、もうい」

「条件があるそうだ。」

「へ?」


苦虫を潰したような顔に不安を覚える。

きっと精一杯(セイイッパイ)交渉して、の条件だろう。


「・・・どんな?」


「いくぞ?」


「うん。」




一つ、教科書を信じること。

二つ、教科書に書かれた使用要領(シヨウヨウリョウ)は守ること。

三つ、教科書を大切に扱うこと。


だそうだ。
それを守るなら貸すとよ。」


ホッと胸を撫(ナ)で下ろす。

条件とか言うから無理難題(ムリナンダイ)を言ってくるかと思った。

息子さんは本を大事にする優しい人に違いない。


「おじさん貸して!!」

おじさんからまだ繋(ツナ)がったままの受話器を引ったくり


「絶対守るから!!」


強く宣言する。

凄く大事なものなのに貸してくれるんだから、そのぐらいは絶対守ろう。



受話器の向こうの息子さんは"そう"とそれだけ言うと切ってしまった。


まだお礼言ってなかったのに。


< 15 / 18 >

この作品をシェア

pagetop