校舎と夕日の間から
ほんのひとときの直との時間が、これほどまでに俺にパワーをくれるなんてな。
帰りの車の中でも、直は彼女らしい会話をしてはくれなかった。
だから、俺も明日の文化祭の話をした。
直が言い出したであろう『やきそばやさん』
毎日遅くまで準備をするかわいい生徒達のためにも、大成功を願おう。
看板を塗るペンキの匂いも、
練習で作ったやきそばがこげた匂いも、俺は一生忘れない。
このクラスの担任になれたこと。
ちゃんと覚えていよう。
2度と戻らないこの時間を…
「先生、明日やきそばいっぱい食べれるね!」
車を降りた直は、そう言って、夜空を見上げた。
俺も夜空を見上げ、言った。
「あぁ、美味しいやきそば期待してるから!」
直は、元気良く手を振って、俺と反対方向に走り出した。
いつの間にか、直は俺が思ってるよりずっと大人になっていた。
きっと、辛いことがたくさんあったから。
いっぱいいっぱい泣いたから…
だから、直は強く、そして優しく…
どんどん魅力的な人間になっていくんだな。
真っ暗な廊下を歩きながら、隣の棟の明かりのついた教室を見る。
今は、今しかないんだ。
来年の文化祭には、俺のクラスの生徒はいない。
もうこの3年5組は、なくなる。