校舎と夕日の間から
遠くからだんだん近付く足音。
「先生、味見して!!」
一瞬、夢の世界に行きそうになっていた俺を呼ぶ声。
お皿にちょこんと乗ったほんのちょっとのやきそばを、俺の顔の前まで持ってきて笑顔で俺を見る。
直だった。
「おぉ、どれどれ?」
直が、持っていた爪楊枝で俺の口へ、やきそばを一本運ぶ。
「あははは!!一本じゃ味わかんないよね~!」
直が口に入れてくれたやきそばをじっくりと味わう俺を見て、隣にいた中田ゆかりが笑う。
大事に大事に味わう俺。
正直言って、一本じゃ味わかんねぇ。
でも、愛情は伝わった。
直は、きっと俺の為に貴重なやきそばをこっそり盗んできた。
「うまい!これなら、行列間違いなしだな!」
準備に忙しい生徒達の目を盗んで…
直にウインク。
「良かった!!じゃあね、バイバイ!先生!」
風のように来て、風のように去っていく直。
望んでなったわけじゃない直の担任だが、今の俺達にとっては、こういう一瞬の出来事がものすごく嬉しいんだ。