校舎と夕日の間から
俺は恵まれている。
直も、
俺の娘も、
とても賢く、物分りが良く、大人だった。
娘は、俺の前まで来ると、にこっと笑った。
そして、言ったんだ。
「やきそば、ふたつください!!」
涙をこらえるのが苦しかった。
目の前にいる父親に、抱きつくこともなく、ちゃんとその場の状況を理解してくれていた。
それは、俺のDNAなのか、母親の育て方なのかわからないが。
「ふたつだね。」
俺はしゃがみこんで、頭を撫でた。
ここにいる誰もが、この子が俺の娘だなんて気付くはずもない。
それくらいの名演技。
でも、直が隣にいたら…
あいつはきっと気付いただろう。
きっと、今…娘が演じたように、直はいつも演じなきゃいけないから。
大事な娘と大事な彼女が今、重なって見えた。