【完】キスしてッ! -年上甘々☆溺愛カテキョ-
「そういえば、悠ちゃんは?」
私は歩きにくい浴衣で、転ばないよう気を付けながら美織ちゃんに聞く。
毎年一緒に行くのに、今年はいない悠ちゃん。
美織ちゃんが何も言わないから、講義かな?とか思ったんだけど…。
美織ちゃんの口から出た言葉は、意外なものだった。
「あ~、本部にいるってさ。なんでも買ってやるから来い!って。慰めてるつもりなのかねっ」
本部?
なんで悠ちゃんが、そんなところに…?
花火を打ち上げる人でも、花火大会の役員でもないのに。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す私。
でも美織ちゃんはどこか寂しそうな顔をしていて、それ以上話すのはやめておいた。
…やっぱり、こういう行事は彼氏…。
裕貴くんと来たかったよね。
美織ちゃんの彼氏の裕貴くんは、何かと忙しいからデートとかはあまりできないんだって。
だけど、今日は年に一度の花火大会だよ?
…なんだか隣にいるのが私で、なんか悪いなぁ…。
「な、なんでひなが沈んでんのよ!ヒロの事なら気にしないで?」
少しうつむいて歩くスピードを緩めた私に、美織ちゃんが明るく言ってくれる。
そう言われると、余計に気になっちゃうよ。
やっぱり、電話してもう一回誘ってみたら…?
せっかく年に一度の花火大会、裕貴くんと楽しく過ごしてほしい。
美織ちゃんが憂鬱そうだと、私もつまんないよ…。
顔を上げて「裕貴くんに電話したら?」と言おうとした時、前から「お~い!」と手を振りながら走ってくる人が見えた。